電動ガンのスイッチ磨耗と各種対策


電動ガンは内部のスイッチによってON/OFFを切り替えますが
モーターを動かす大電力に耐え切れず、どうしても磨耗してしまいます。

今回はスイッチ磨耗のメカニズムと各種対策、それらの特徴を説明してきます。

まずはスイッチ磨耗のメカニズムです。
左図は電動ガンのスイッチを上から見た略図になります。
2枚の固定側スイッチとトリガーに連動する稼動側スイッチから成ります。
まず、トリガーを引くと連動した稼動側スイッチが固定側スイッチに近づきます。
両者が接触するかしないかという時に、青白く火花が飛びます。

空気と言うのは通常、電気を通さないのですが
電圧が高くなるか電極の距離が狭くなったとき、電子が空気中を飛び越えてしまいます。
電気と言うのは電子の流れのことを言い、通常の空気であれば
電子は1000Vで1mmの距離を飛び越えます。10Vならば0.01mmですね。

このとき、飛び越えた電子が空気中の気体分子と接触してイオンとなり
光を放つと共に熱を発生させます。これが青白い放電の正体です。
静電気や雷と同じ原理が、電動ガンのスイッチでも起こっていることになります。

実はこの時、スイッチにはバッテリーの電圧より高い電圧がかかっています。
と言うのも、これらのスイッチは表面がザラザラしていたり機械的な性質などから
ON/OFFと瞬時に切り替わらず、ONとOFFを物凄い速さで繰り返しながら
最終的に切り替わります。これをチャタリングと言います。

すると、モーターには一瞬ですがON/OFFを激しく繰り返す電圧がかかります。
モーターは回らないうちはただのコイルなので、
電磁誘導を利用した昇圧コイルと同じ作用で電圧が増幅され
それがスイッチにかかってしまいます。

電圧が高いと放電する距離も長くなり、威力もアップします。困ったものです。
(現象解明していただいたN村さん、ありがとうございます)
そして、両者がしっかり噛み合ってしまえば放電は起こりません。

この時、ノーマル電動ガンならばスイッチには10Aちょっとの電流が流れています。
続いてスイッチが離れた時です。

トリガーを戻したり、カットオフレバーで跳ね上げられたスイッチは
ばねに引っ張られて接点から離れようとします。

すると、みるみるうちに固定側と稼動側の接触面積が少なくなっていきます。
スイッチの接触抵抗と言うのは面積に反比例するので、
どんどん接触抵抗が大きくなっていくことになります。

そして左図のように、最終的にほぼ点と点で接触している
接触抵抗MAXの状態になります。
問題なのは、「大電流を流したまま」スイッチを引っこ抜くと言うことです。

上で説明したとおり、両接点が離れる瞬間と言うのは
接触抵抗が最大になっています。

大電流を流したまま抵抗値を大きくすると、W(電力) = I(電流)^2 × R(抵抗)となり
電流が同じまま、抵抗が大きくなると比例して電力(発熱量)が大きくなります。

すると、接点が熱を持ち融解してしまいます。
この融解した接点は同時に電子を放出し、それが空気中の分子と接触すると
先に述べたように火花となります。

このように、スイッチはON/OFF時、それぞれ電圧と電流が深く絡んだ形で
磨耗を繰り返していることになります。

それでは、それを防ぐための対策とそれらの特徴を見ていきます。
・FETデバイス

FET(電界効果トランジスタ)を使用した大電力用スイッチング回路で、
半導体版のリレーとも言えます。

基本回路はFET1個、抵抗2個で作れ、電動ガンでは昔からポピュラーな存在です。
こちらが一般的なFETデバイス(M4後方配線用)になります。

赤と黒の太いコードがバッテリーからの動力線、
丸型端子のついている白いコードがモーターへの動力線、
白くて細いコードがスイッチへ繋がる信号線です。

FETの特徴としては、従来のスイッチをFET駆動の信号用にする為、
スイッチの磨耗がまったく起こらなくなると言うことです。

また、電動ガンの制御を電子的に行うことができるので
連射サイクルをコントロールする「スピコン」や
ピストンを任意の位置で止めておける「スナイパー回路」など
高度な電子制御化を行うことも可能です。
(それなりの電子回路技術が必要となります)

しかし、使い方を誤るとFETが破損、フルオートが暴走すると言う
デメリットもあるので、しっかりした回路製作が必要になります。
FET化することによるサイクルや燃費の変化


FET化において、ノーマルと同じ配線で長さも同じならば
ノーマルに比べ、サイクルや燃費が向上することはありません。
(スイッチが極端に劣化して抵抗になっている場合を除く)

しかし、FETも使い方によっては効率を大きく上げることができます。

左図(手書きで汚いです)は、ノーマルの後方配線図になります。
バッテリーからモーターへ、モーターからスイッチへ、スイッチからバッテリーへと
結構な長さの配線になっています。
次に、FET化した時の配線図になります。
バッテリーからFETを通してモーターへ、モーターからバッテリーへと
ノーマルに比べ、動力用の配線が短くなっています。

配線の抵抗は長さに比例し、断面積に反比例します。
配線を短くする = 高効率へと直結しますので
FETをうまく使うと、動力用の配線を短くすることができ
結果、サイクルや燃費が向上します。

FETを使用する際に注意する点は

・電動ガンのスペックにあった定格選び
・放熱とショート対策をしっかり取る
・サージ対策を施す
・バッテリーの電圧降下を把握する

の4点です。
定格に関しては、現在多く出回っているIR社製FETならばほぼ問題は無いので
IRL3713やIRLB3034PbFを使っていれば十分です。
FETは熱に弱いので、スペースに余裕があればヒートシンクを取り付けましょう。

問題はサージ対策とバッテリーの電圧降下です。
左図は一般的なFETデバイスの回路図です。

サージとは、モーターなどのコイルを使った誘導負荷から発せられる
突発的な大電圧で、ON/OFF時に発生します。
電動ガンの場合、先に述べたスイッチON時のチャタリングによる物と
スイッチOFF時にモーターから発生する逆起電力の2種類がサージとなります。

FETは定格を超えたサージに非常に弱く、簡単に壊れてしまうので
これらの対策が不可欠となります。

対策は簡単で、モーターと並列にSBD(ショットキーバリアダイオード)を入れます。
(回路中では記号を間違えてて、ただのダイオードになってます^^;)

FET内部にも寄生ダイオードと言う形のダイオードが入っていますが
こちらは大電圧に対応できない(逆回復時間が遅くなる)ので
外部ダイオードを取り付けるのが手っ取り早いです。

また、ON時に発生するサージはON-OFFを高速で繰り返しているので
逆回復の遅い一般整流用ダイオードでは効果が望めません。
次に、バッテリーの電圧降下です。

バッテリーは内部抵抗と呼ばれる抵抗分があり、
電動ガンを駆動させ大電流を流すとオームの法則により
自身の電圧が低くなってしまいます。

左の写真はニッケル水素8.4V 1100mAhバッテリーで
ノーマル電動ガン(EG700)を動かした時の電圧です。無負荷では約9.5Vあった電圧が、
約7.8Vまで落ち込んでいます。
これはフルオート時で、セミオートの立ち上がりの時は
この何倍もの突入電流が流れるので、バッテリーの電圧は一瞬大幅に落ち込みます。


問題なのが、FETはゲート-ソース間にかかる電圧が低くなると
内部の抵抗分が大きくなり発熱しやすくなると言う特性です。
左図はIRL3713の素子温度25℃における
VGS(ゲート-ソース間電圧)、VDS(ドレイン-ソース間電圧)と
ID(ドレイン-ソース電流)のグラフになります。

電動ガンは単一のバッテリーを使用するので
VGSとVDSはほぼ同じ値になります。

グラフを見ると、電圧が4VくらいかかっていればIDは100A以上流せます。
しかし、3.3Vになると、その半分も流せなくなり、2.8Vになると
ミニ四駆のモーターでも精一杯になります。

このように、FETと言うのは入力される電圧で許容電流が大幅に変わります。
内部抵抗が小さく、電圧降下が少ないリポ/リフェバッテリーならば
FETのゲートをしっかり開くことができますが
電圧降下の大きいニッカド/ニッケル水素のミニバッテリー、
特に「電池切れかけ」のバッテリーを使うとFETは一気に発熱してしまいます。

上の実験を例に取ると、フルオートの駆動電流が確か13A前後だったので、
計算するとニッケル水素バッテリーの内部抵抗は約130mΩとなります。
やや大きいですが、かなりへたったバッテリーなのでこんな物でしょう。
モーター駆動時の突入電流が5倍の50A流れたとすると
その時のバッテリー電圧はなんと約3Vとなります。

グラフを見ると、FETの許容電流は30A程度となり
定格をオーバーしていることとなります。

これらの事から、FETを使うときは
・なるべく放電能力の高いバッテリーを使う
・ニッカド/ニッケル水素はなるべくラージバッテリーを使う
と言うことが言えます。
続いて、FETの説明でも出てきたSBD(ショットキーバリアダイオード)を使った
スイッチ磨耗対策です。
スイッチON-OFF時に、モーターが原因のサージや
大電流によるスイッチ融解が起こる事は先に説明しました。

SBDのみならず、ダイオードと言う半導体素子は
通常、決まった方向にのみ電流を流すと言う性質があります。

それを利用してモーターから発生した逆起電力の向きを整えて
電源と同じ向きにし、モーターに還す事で吸収してしまうと言う手法で、
古くからモーターをはじめとする誘導負荷のサージ対策に用いられてきました。

ちなみに、モーターの逆起電力をモーターの電源と同じ向きに還すとありますが
この時、モーターから発生する逆起電力は電圧こそ高いものの
電力自体は微々たる物で、モーターを連続回転させるだけの力はありません。
なので、還したからといってモーターが余分に回り、
セミがバーストになったり、トリガーを離してもフルが止まらないということはありません。
写真の左のスイッチは、自前の電動ガンにA123S 9.9V 1100mAhリフェを使って
新品状態からセミオート5000発後のスイッチです。
接点が大きく磨耗してしまっているのが分かります。

対して右のスイッチはSBDを接続後、同じく新品状態から5000発発射後の物です。
接続前に比べ、大幅に磨耗が軽減されているのが分かります。

以前掲載したSBD記事はこちら
使用したSBDは地元電気パーツ店で購入した
100V/4Aの物(メーカー、型番不明)です。

同等スペックのものでは、日本インターの31DQ10辺りが良いでしょう。
チップ型を使うとさらにコンパクトにすることができます。

SBDの選定は、VRRM(繰り返し逆電圧)がサージ電圧以上、
IF(順方向電流)がモーターの無負荷消費電流以上の値を確保していればOKです。

サージ電圧は電源電圧の5倍以上を見積もれば大丈夫とは思いますが
私は念の為に約10倍の100V定格を使用しています。
順方向電流はよっぽどのモーターで無い限り、4Aあれば十分です。
逆起電力はごく短時間なので、サージ順電流でカバーできているかもしれませんが
検証していないのでなんとも言えないところです。
それをモーターに接続し、MAGPUL PTSのMOEグリップに収めています。
FETのサージで説明と同じで、一般整流用のダイオードだと効果は望めません。

お手軽かつ効果のある方法ですが、FETと違いスイッチには大電流が流れるので
それによるスイッチの融解までは防ぐことができません。
また、モーターに近い場所に配置できないと効果が薄いという欠点もあります。

FET、SBDについて長々と説明してきましたが、
これらをまとめると下記の通りになります。
それぞれ一長一短の特性を持っているので、用途に合った選択をすると
一層、手持ちの電動ガンの性能を引き出すことができます。
・FET

*長所*
・スイッチを完全に保護できる。
・使い方によっては効率アップが見込める。
・電動ガンの電子制御に使える。

*短所*
・使い方を誤ると暴走の危険性がある
・組み立て、取り付けにはある程度の知識と電子工作の技術が必要
・機種によっては取り付けに制約がある
・SBD

*長所*
・製作がとても簡単
・価格が安い(1個数十円〜100円程度)
・電動ガンの動作にまったく影響を与えない

*短所*
・スイッチ磨耗を完全には防げない(寿命は大幅に伸ばせる)
・機種によっては取り付けに制約がある